ローカルワーク in HOKKAIDO

HOME ローカルワークストーリー 黒須 祥さん(北海道中央葡萄酒株式会社 千歳ワイナリー)

ローカルワークストーリー

ワインづくりを通して千歳の名前を世界に〜震災を機に移住〜

心を奪われた一口のワインと、震災をきっかけに千歳市へ移住

JR千歳駅から10分ほどのところにある、石蔵が目印の千歳ワイナリー。ここでつくられているワインの味に惚れ込んで、この会社で働くことを選んだのが黒須祥さんです。黒須さんは愛媛で生まれ、その後千葉や茨城など本州の方で過ごされていました。就職は東京の出版社。これまで北海道とは縁もゆかりもありませんでした。そんな黒須さんがこの千歳市に移住してくる最初のきっかけとなったのは、大学で農学を学んだことから始まるのかもしれません。黒須さんは大学で学んだその知識を活かすべく、就職先の出版社では農業系の本の出版に携わっていました。

2009年のある日、営業で訪れた山梨グレイスワインというワイナリー。当時、営業にやって来た黒須さんを対応してくださったのは、グレイスワインの誕生に欠かせないスゴイ方だったのです。その方に「ワイン屋に来てワインを飲まないというのか?」と言われ、実はワインがあまり得意ではなかった黒須さんでしたがそう言われると飲まずにはいられません。その時に試飲したワインの美味しい味はもちろんですが、担当者が何気なく発した言葉が黒須さんの心に残りました。「ワインは農作物と一緒。ワインの質は、ぶどうの質で決まる」。出版社で働きながらも、農と携わっていたこともあってか「面白い」と思った黒須さんの心に残ったまま、迎えた2011年3月11日。東日本大震災です。全てが集まり、何もかも手に入ると思っていた東京でさえ、ライフラインが全て遮断。この経験が、大きな移住の決定打となりました。また、子育てをするなら自然のたくさんあるところが良いという思いも加担し、北海道への移住を決めたのでした。

「ここで働きたい」と求人募集も出ていないワイナリーの門を叩く

北海道への移住を決めた際、あの時感動を与えてくれ、心に居座り続けていた山梨のグレイスワインが千歳にも拠点を構えていたことを知りました。「自分のこの手で、人を感動させるワインをつくりたい」そう思った黒須さんは、千歳ワイナリーの門を叩きました。この時、求人募集が出ていたわけでもありませんが、ここで働きたいという意思を伝え、その熱意が通じ採用。今では、千歳ワイナリーの中心人物として活躍しています。

千歳ワイナリーのスタッフの数は7名。決して多くはない人数ですが、全員で商品の開発・製造、出荷や販売まで全てを協力しておこなっています。それに対し黒須さんは「小さな会社だからこそ、イチから自分がつくったものを直接お客様に販売できることが嬉しい」と話し、さらに「自分たちが手掛けたワインを美味しそうに飲んでいる人の姿を直接見ることができるのが一番のやりがい」と言葉を継ぎます。

黒須さんと一緒に働く碇(いかり)さんという若手女性スタッフも、黒須さん同様たまたまた訪れて試飲したワインに惚れ込み、ここで働きたいとやって来た一人。実は碇さんも最初から「ワインが大好き」というタイプではなかったと言います。しかし、そんな二人を魅了したワイン。スタッフ一同が、自社のワインの魅力を知り、多くの人に届けようと、そして日々進化を目指し奮闘しています。

道外出身だからこそ、空港からも近い千歳市は魅力的

仕事の面だけではなく、もちろん普段の生活もガラリと変わりました。何より嬉しいのが、「通勤時間の短縮」だそうで「東京にいる時は満員電車に1時間20分も揺られていたけれど、今は玄関を出て車で5分なんです」と通勤もストレスフリーに。「東京の長い通勤時間では、音楽を聴いたり本を読んだりしていたのですが、今は1曲分の音楽しか聴けないのが逆に最初はストレスでしたよ(笑)」なんて冗談も交えます。さらにもともと本州のご出身ということもあって、実家は今も道外にあります。「家を出てから羽田まで2時間で着くんです。こうして空港から近いのですぐに実家に帰れるのも千歳の良さですね」と話してくれました。

世界に通用するワインをこのまちから発信し、恩返ししたい

当時はワインが苦手だった黒須さんですが、今ではワインに懸ける想いは人一倍です。その証拠に、黒須さんの口からは力強い未来へのビジョンが語られます。「北海道のワインのクオリティはまだまだ上を目指せます。皆さんを感動させるようなワインをつくる。それが私たちの役目です」。

ワインづくりは時間がかかるものらしく「満足なクオリティのワインが完成できるのは恐らく私たちの孫の代。その礎を今つくっているところ」と黒須さん。まだまだ海外の方がワインの生産力があり、味わいやクオリティも高い。さらには、ワインづくりの歴史も紀元前に遡り、だからこその経験値もあります。それに比べてまだ日本は歴史が浅く、経験も少ない。果実をとるのだって年に1回。しかも毎年同じ品質の果実ができるわけでもなく、その年のぶどうにあった醸造方法が求められます。…聞けば聞くほど奥が深いワインづくり。

黒須さんは「良いワインをつくることが、千歳市というまちへの恩返しに繋がると思う」と話します。「世界にも通用するワインをつくり、千歳ワイナリーが評価されることによって『千歳』を知ってもらいたい」。恩返ししないと!と意気込み十分の黒須さんの瞳からは、その熱い想いが伝わってきました。

(2018年10月)

ローカルワークストーリー 一覧へ

TOP