ローカルワークストーリー

- 11青木 明子さんAkiko Aoki
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- 室蘭・苫小牧エリア | 安平町
きっかけは、おいしい野菜をつくっておいしく食べる幸せを伝えて行きたいという思い

青木さんは公務員の夫と2人の子どもの家庭の専業主婦でした。元々食や健康に興味があり、ジュニア野菜ソムリエやハーブセラピスト、豆腐マイスターの資格を取得していました。
次男の功士さんには知的障がいと自閉症があります。由仁町の農園で、週末に「由仁ふれあい農業小学校」というのをやっており、功士さんも一緒に参加していました。市民農園のように各家庭に1区画ずつの農園があり、野菜の栽培方法を習います。肥料もそこで作った堆肥を使ったものだそう。その農業小学校には各地から参加者が来ており、自分も、「野菜がどんな風に植えられ成長していくかを伝えることができたらいいな、それから食育の活動もできたらいいな」と漠然と思っていました。功士さんも農業小学校では楽しそうに作業していたそうです。
農業小学校に行く前は、安平町で食育講座もやっているNPO法人に立ち上げから3年間関わり、役員をしていました。現在使っている農地の地主さんも、そのNPO法人がやっているコミュニティレストランのお客さんでした。レストランを閉めることになった時、「ここの土地を使っていいよ」と言われ、おいしい野菜を作りたくて、食べたくて、功士さんが養護学校を卒業する2年くらい前にこの土地を借りました。
障がいのある次男の就労の場所としても

青木さんは平成28年4月にとあさ村を開設。農薬や化学肥料を使わず野菜を育て、ハーブティやドライケールなどの加工品も作っています。平飼いのニワトリも卵を産んでくれます。ポニーやヤギの飼育も始めました。ヤギは仁木町の知り合いの農家から譲り受け、ポニーは千歳市でポニーの乗馬体験をしている知り合いから無償・無期限のレンタルです。
とあさ村の隣に住む地主さんとは一緒に畑で昼食をとったり、時には畑でバーベキューをしたり、お客さんが来た時に対応してくれたりなど、とてもいい関係です。
野菜の栽培の方法や食育などを学んだ結果、今があります。「息子を見ていると、食が安定すると心も安定すると感じます。遠方の養護学校に行かせていた時はストレスもあったと思います。息子は睡眠と食事を家できちんと取ると不安定な状態が減り調子がいいのです」と青木さん。「そういうところからますます食の安全には気を使うようになったし、いい野菜を食べようと思いました」セラピーも兼ね備え、つくったものを販売してお金を得て行くのはありかもしれない、野菜やハーブの魅力を伝えることができる自然体験農園をつくって、自分の資格を生かして安心・安全な食を伝える食育活動もしたい、という希望が湧いて来ました。
そして、同じように障がいを持つ子を育てる親御さんたちと話していて、子どもが学校に行っている間は送り迎えをしたり遠方で寮生活をしたり、働きだしてからは障がいを持つ子を職場に送り届けるために母親は働けないという現状も見て来ました。そんな中で「子どもと一緒に働ける場を作りたい」という思いが芽生えて来たのです。功士さんを育ててきた中で、知的障がいや自閉症などの発達障がいの方々への支援スキルを数多く学んできたので、その専門家や保護者のネットワークも活かせると思いました。
障がいを持った方、親子連れなど色々な方が楽しめる自然体験農園に

とあさ村を始めてみたら、功士さんも草取りや野菜の収穫や片付け、ヤギやポニーを小屋から出したりなど、喜んで仕事をするようになりました。
障がいを持った方にもぜひ体験農園に来てもらいたい、というのが青木さんの思いです。障がいを支援するスキル、例えば発達障がいを持つ功士さんには言葉で伝えるより文字や図で伝える方が伝わりやすいなど、これまで色々と学んだことを活かし、心地よく過ごしてもらえるように配慮していきたいと思っているそうです。
また、野菜の世話をすることや、ポニーやヤギとふれあったりすることは、セラピーにもなると思っています。小さいお子さんのいる親子連れ等も、お子さんの年齢やリクエストに合わせてポニーに乗ったり野菜の作業をしたりしています。
札幌や苫小牧などのマルシェに出店して、野菜やハーブ、ニワトリの卵やオリジナルブレンドのハーブティを販売することもあります。「野菜、美味しかったよ」という声を直接聞くのは何より嬉しいし、少し珍しい野菜の料理法などを教え、後日その反応を聞くのがまた楽しみだそう。時には農園で読みきかせとか畑でヨガなどのイベントをすることもあります。
広々とした風景の中に密な人間関係がある安平町

札幌市出身で、結婚を機に安平町に住み始めた青木さん。安平町在住は25年くらいになります(2018年現在)。安平町は雪が少なくて空港や札幌にも近いのが便利だそうです。周辺は馬の産地で、牧場や田園風景が広がっていて田舎の割には、美味しいものやお土産など空港に行けば何でも揃います。子供たちが小さい時にプールに連れて行ったりした時も、貸切に近いくらい空いていたそうです。
功士さんは中学3年の2学期まで町立中学校の特別支援学級に通っていました。学校は学年で1クラス、多くて2クラスで小・中学校と進むので、濃い人間関係が築かれます。担任の先生は毎年変わりますが、子どもたちは小さい時から功士さんのことをよく知っていて、校外行事の時など、先生よりも功士さんへの対応が上手だったそうです。
功士さんに障がいがあったことで、青木さんは、「地域の人との関わりや役場とのつながりもあった方がいい」とより強く思うようになりました。健診や講演会の時の、町の託児ボランティアの連絡係や、読み聞かせのボランティアなどもしていました。障がいを持ったお子さんを持つお母さん達の自助グループもつくり、情報交換したりお互いの悩みを聞きあったりもしています。
農福連携の就労支援の場所にしていきたい

青木さんがあたためていた思いを、よりビジネス的な視点で考えることが出来るようになったきっかけは、道庁主催の「ローカルワークビジネススクール」に参加したことも影響しています。NPO法人えがおつなげての曽根原講師の指導で、自分の持っている資源の分析や、農村の資源を都市のニーズと結びつける視点やターゲット、ビジネスモデルのつくり方を延べ6日間かけて学びました。
また、他の参加者が暖めているビジネスモデルを俯瞰して見ることや、それに対する講師の講評がとても参考になり、刺激にもなりました。「次にこれをしたい、あれをしたい」という想いを、とにかく言葉に出して伝えることが大切だということも教わり、いろいろな場面で実践しています。
平成29年6月にはNPO法人化して会員を募集しました。収穫した野菜を買い取ってもらい、食育講座も開いています。今後は、農園にコミュニティスペースもつくりたいし、冬のメニューとして歩くスキーやスノーシュー体験などもやってみたい、事務所をどこかに借りたい、と青木さんのプランは広がっています。
現在は、農福連携の福祉事業所の開設に向けて、同じ思いを持つ人たちと一緒に準備を進めています。最終的には、農園で障がい者が自立して生計を立てられる仕組みをつくっていくのが青木さんの夢です。その夢に向かって青木さんは今日も、功士さんと畑作業をしたり、新しい販売商品を試作したり、様々な人とのネットワークが広がる交流の場に出かけたり、自然栽培や農福連携についての各地の研修会に参加したりと、前を向いて歩き続けています。
(2018年3月)
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