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HOME ローカルワークストーリー 名塚 ちひろさん(ゲストハウスコケコッコー)

ローカルワークストーリー

「ゲストハウスを釧路を知ってもらうきっかけにしてほしいんです!」
~そこからこの街の未来を一緒にデザインしていけるから。

充実はしているが、忙しすぎる毎日に感じた違和感

「高校時代からデザイナーという言葉に魅力を感じ、高校卒業を機に釧路を離れ、函館の大学でデザインを専攻しました」と語る名塚さん。

デザインと言えば、見の周りにある「モノ」に対するプロダクトデザインの印象が強いですが、名塚さんが大学で学んだのは「情報」に対するデザイン。世の中に溢れる様々な情報の見せ方、伝え方をデザインするものです。

情報デザインを学ぶ中で、この分野特有の「アイデアが出なかったらどうしよう・・・」という怖さを感じるようになったと言います。しかしその怖さは、様々なワークショップや企業のインターンシップの場で、一緒に参加した学生とアイデアを出し合うプロセスを繰り返すことで「デザインって楽しいじゃん!怖くないじゃん!」と思うようになったそうです。

その経験が「自分はデザインに関わって生きていきたい」という思いを強くさせたと名塚さんは話します。

大学院を卒業した後、大手メーカー系のデザイン企業でデザイナーとして就職。会社員時代は国や地方自治体、高速道路などインフラに関わるシステムやアプリケーションのデザインに関わる傍ら、海外での発表も経験。会社員としてのキャリアを重ねる一方で、都会特有のハードな通勤や自らをすり減らす働き方に違和感を感じるようになったそうです。

市民団体「クスろ」の誕生

「地元釧路に帰省した時、その頃札幌からUターンした高校時代からの友人と再会し、故郷について語り合ったことからすべてが動き出した」

元気を失っていく故郷、若手のプレイヤーが不足している現状、そういった課題を共有するうち、話は自分たちにできる具体的なアクションに及び、その再会から間もなく、2人は市民団体「クスろ」を立ち上げることになりました。

その後もしばらく東京でデザイナーを続けた後、2016年夏、名塚さんは釧路へUターンする道を選択します。クスろの活動とデザイナーの仕事をどう両立するか、自身はこれからどう働いていきたいかを悩んだ当時をこう振り返ってくれました。

「トレンドの中に身を置けること、安定した給与が得られていたこと、デザイナーとしてのキャリアを積むために十分な理由が東京にはありました。ただ、釧路にプレイヤーがいないことへの危機感がそれを上回ったんです」

フリーランスデザイナーとして、そして市民団体の副代表として地元釧路で活動する日々が始まりました。

「ひと」を通じて釧路を発信しよう!

クスろの活動の軸は「ひと」を通じて地域の魅力を発信することなのだそう。

確かに、クスろのWEBページ「クスろ港」を覗いてみると、地元釧路の魅力的な「ひと」のインタビュー記事や、そこで紹介した人々を巡るツアー、インタビュー記事を再編集したフリーペーパーの製作など、「ひと」の魅力に関するコンテンツが盛りだくさん。ワークショップや情報交換の場を提供し、釧路に暮らす楽しさの発信にも積極的な様子です。

名塚さん自身も、デザイナーとして、またクスろの副代表として、これまで関わったことのない人たちと繋がる機会が増え、日々新たな釧路の魅力を発見していると語ってくれました。

阿寒に生まれたゲストハウス「コケコッコー」

名塚さんは釧路でデザインの仕事を続ける中で「せっかくUターンしたんだし、ここでしかできないこともしたい」と感じるようになりました。

クスろを通じて発見した釧路の「ひと」と外の「ひと」。もともと興味のあったゲストハウス。 それまでバラバラだったそれぞれの要素が名塚さんの中でひとつになって導き出されたのが、釧路に来た人と釧路に居る人をつなぐ「場」としてのゲストハウス作りでした。

ゲストハウスの場所として選んだのは釧路市阿寒町。かつて国内トップクラスの出炭量を誇った雄別炭鉱で栄えた地区でしたが、今や人口流出や相次ぐ店舗の閉鎖でとても寂しい風景になってしまいました。それでも、高速道路のインターチェンジや空港からのアクセスが良い立地と、手付かずに残された自然に名塚さんは可能性を感じたそうです。そんな阿寒での物件探しで見つけたのは築65年の元旅館。すでに廃業していたものの、昭和の雰囲気が残るレトロな内装を見た瞬間湧いたイメージに、「ここならできる!」と確信しました。

建物の補修やリノベーションはワークショップ形式を取り入れることとし、地域からの参加者を募りました。阿寒地区に留まらず、釧路管内全域から毎週たくさんの人たちが快く力を貸してくれたおかげで2017年7月、ゲストハウス「コケコッコー」のオープンを迎えられました。 ワークショップやお祭りのお手伝いを通じて深まった地域の人達との交流やゲストと地域の人とのつながり。ゲストハウス作りを決意した時にイメージした「場」がコケコッコーで生まれ始めています。

自分が動くと周りが変わっていく!

会社員時代は、規模の大きな案件に関わる経験を積むことができた一方、全体の中の一部だけに関わる働き方に自身の存在意義を見失う事すらあったと話してくれました。

しかし、釧路に帰って来てからは、そんな思いをすることがなくなってきました。

今、ゲストハウス「コケコッコー」には、彼女の他に釧路にIターンしたスタッフが2名います。この二人はもともと東京で出会った友人で、名塚さんの釧路での活動に「面白そう!」と興味を持ち、ゲストハウスのオープンに向けてIターンしてくれました。

また、ゲストハウスの歴史はまだまだ浅いですが、ご近所さんが新しくお店を始めたり、自分の店の空きスペースを使って新しいことを始めようとする動きが生まれたり、自分が動くと周りの人達がつられて動き出すという事に気付いたと言います。

この「自分が動くと周りもつられて動き出す」実感こそが、名塚さんの原動力となっているのでしょう。

“これから”をデザインする

名塚さんが最近のテーマとしているのは、「“これから”をデザインする」こと。

まちの「これから」、企業や生産者さんの「これから」、いろんな「これから」をデザインしていきたいという想いがこの一言に溢れていました。「まちづくりとデザイン、その両方に明るい人間になりたいんです」

名塚さんはデザイナーとして、関わる人たちのパートナー、そしてまちに関わるプレイヤーとしてこれからも活躍していくことでしょう。彼女の「これから」に目が離せません。

(2018年2月)

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