ローカルワークストーリー
3,200人の村に移住して、起業へ。

- 05亀井 秀樹さんHIDEKI KAMEI
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- 十勝エリア | 更別村
「村」はかっこいい!「村民」に憧れて、移住しました!

「初めて十勝に来たときは、初めて訪れる場所なのにどこか懐かしさを感じました」
十勝の更別村で地域おこし協力隊として活動し、任期終了後もそのまま村に定住をした亀井秀樹さん。お父さんの仕事の関係で、亀井さんの出身はオーストラリア。転勤が多く、自信を持って「ここがふるさとだ!」と呼べる場所は無かったといいます。
20歳の頃、47都道府県を旅するなかで初めて訪れた十勝は、遥かな空と広大な大地、隣の町まで何十キロという圧倒的なスケール感にどこかオーストラリアに似た空気感を感じたそう。
「将来こんなところに住めたら素敵だなあ」
その理想は現実のものとなりました。総務省の地域おこし協力隊制度を利用して、十勝の更別村へと念願の移住を果たします。「更別村は人口3,200人なんですが、私は村にとても憧れを持っていました。村って、区や市や町にはない魅力がある。私のなかでは村が一番かっこいい。村民になりたくて仕方なかった!」
地域おこし協力隊になってからは、観光イベントの企画や寒い冬の間に濡れたジーンズを凍らせて透明人間が立っているかのように魅せる「フローズンパンツ」というユニークなPR企画をどんどん仕掛けていきました。

想いのあるひと同士がつながる場をつくるため、熱中小学校をスタート!

「私は更別村の地域おこし協力隊として2年半活動してきました。その中でわかったことは、地域にはたくさんの資源があっても、それらを活用できるプレイヤーが圧倒的に不足しているということ。やりたいことにいまひとつ踏み出せず、くすぶった想いを持つひとも多い。そんな想いのある人たちをつなげて、想いを共有したり、悩みを相談できる場所、仲間作りができる場をつくりたいと思いました」
そこで村一丸で立ち上げたのが、熱中小学校という大人のための学校をつくるプロジェクト。
熱中小学校は、「もういちど、7歳の目で世界を」のキャッチコピーで山形県高畠町での開校をきっかけに全国に広がっています。熱中小学校の教室では、上場企業などの社長、大学教授、デザイナー、技術者などの豪華な教諭陣が様々なトピックの講義を行い、地域の人材育成・異業種間交流・地域間交流・特産品開発・サテライトオフィス事業に取り組み、地域に新たな風をどんどん起こしています」

十勝さらべつ熱中小学校の校長には、グローバルに展開しているアウトドアブランド「株式会社スノーピーク」の代表取締役社長山井太さんが着任。また、十勝の帯広畜産大学の元学長の長澤秀行さんなど地域で活躍されてきた方々がオール十勝で積極的に学校経営に携わっているのも特徴。
「豪華な講師陣も魅力のひとつ。東京ではなかなか会えないような一流の方々が、ここ更別村だと膝を突き合わせて近い距離感で話すことができる。お酒を飲んだり、仕事の悩みを相談したり、困っていたら誰かを紹介してもらったり。実際にビジネスチャンスをつかんで地域商社を立ち上げたような生徒さんもいます!」
成長や自己実現ができるのは、東京だけじゃない

亀井さんは熱中小学校の事務局長として、学校運営に関わる全ての仕事を担っています。講師のブッキング、生徒の募集、入学後のフォローなど全体のオペレーションはもちろんのこと、経理や総務、人事採用などあらゆる業務を担当しているスーパーマン!
熱中小学校は村の中心部にある遊休施設をリノベーションして校舎として使っていますが、この施設の指定管理も行っているそう。
「施設の責任者なので、避難訓練の計画もつくるし、雪が降ったら除雪もする。トイレが水漏れしたら業者に頼んですぐに直す。会社は2016年9月に設立して、その一般社団法人の責任者をやっているのですが、ベンチャー企業はなんでも自分でやらなければならないということを身をもって実感しています」
そんな亀井さんに地方での暮らしぶりを聞くと、面白い反応が。
「私の理想の暮らしは、薪割りをして、ゆっくりコーヒーを飲んで、薪ストーブの前のロッキングチェアで愛犬のパムを愛でながらゆったり過ごすというような悠々自適な生活なんです。でも、現実は東京よりもハードに働いているという感じ(笑)。僕自身起業をしてベンチャービジネスをはじめたわけだし、村の存続をかけた一大プロジェクトに関わっているので責任感も大きい。仕事はハードだけれど、その分やりがいも大きいです」
田舎暮らしというと、自然のなかでゆったりと時間が流れるスローライフのイメージが強いですが、亀井さんの姿はむしろその真逆(理想と違うというのは若干気になるけれど(笑)。)業務は忙しいですが、新たな経験が出来るため自分の成長を感じられる瞬間も多いといいます。自己実現や自身の成長というと、なんとなく「東京じゃないと手に入れられない」というイメージがありますが、亀井さんのお話を伺っているとそのイメージを良い意味で裏切られます。ローカルにこそ、自身が活躍できる、挑戦できるフィールドがあるのかもしれません。
熱中小学校が、誰かの居場所になってゆく

「地域おこし協力隊から今の立場になって一番思うことは、周りの人がみんな前向きだということ。地域おこしやまちづくりとなると、前例がない、予算がないなど、どうしても後ろ向きな意見や批判的な言葉をもらうこともある。一方、熱中小学校のプロジェクトはゼロからイチを創る仕事なので、関わってくれる人もみんな前向き。できない理由を並べるのではなく、どうしたらその問題が解決できるか同じ方向を見て一緒に悩んでくれるので、気持ち良くプロジェクトを前に進められる。本当に人に恵まれています」
村役場の職員も、熱中小学校の理事も、先生も生徒も、みんなが新たな挑戦に対してウェルカムな姿勢であること。課題があるときに、その課題を自分ごと化させて考え行動できること。熱中小学校に関わる人は物事に対して主体的な人ばかり。
「生徒の中には、どんどん新しいことを考えて取り組みたいけれど、地域では浮いた存在になってしまいモヤモヤを抱えている人もいます。しかし、熱中小学校は何かをやりたい、挑戦してみたいという想いある人ばかりなので、自分と同じような人がいる、ここだと落ち着ける、と言ってくれる生徒さんもいます」
“熱中小学校ができて、自分の居場所がみつかった”
熱中小学校ができたことで、想いのある人が集まり、つながり、地域のなかに新たなコミュニティが生まれています。
オリジナルの小麦の品種開発!?大人が本気で遊ぶ「熱中小学校の部活動」が面白い

十勝さらべつ熱中小学校はまだ開校から1年も経っていませんが、生徒の活動が非常に活発だと言います。
そのひとつが、生徒が自主的に行う「部活動」。関心事や課題意識が似ているメンバーが自ら部活をつくり、様々な活動をしています。なかでも「ピザ部」の始まりは、「美味しいピザを食べたいね」というなんとも安直な動機(笑)。しかし、そこは熱中小学校の生徒たち。小麦の種から育種して、オリジナルの小麦の品種を開発することになりました。国家研究機関の農研機構や十勝にある帯広畜産大学と共同開発の協定を結び、「熱中小麦」を研究開発しています。

「国の研究機関や大学と協定を結ぶところまでいっているので、大人が遊びで本気を出すと怖いなと思いましたね(笑)。(亀井さん)」
毎回の授業の後は交流会があるため、雑談しているなかから興味が同じ人がマッチングして、「こんな部活やろうよ」とやわらかに動きだすのだそう。他にも、地域の資源を使ったクレヨンの開発やEC通販など様々な部活動が始まっています。
ホテルにマルシェ・・・地域に「稼ぐ」を創り出す

地域に新しいコミュニティを作り、人と人との化学反応を起こしている十勝さらべつ熱中小学校。今後の展開について亀井さんに伺いました。
「現実を見なければいけないと思っています。熱中小学校は今は交付金をもらって運営しているけれど、しっかり稼いで自立できるように持っていかないといけない」
次のフェーズはまさに「稼ぐ」事業の創出。そこで考えているのがホテルやマルシェなどの連携事業の構想です。
「熱中小学校の敷地内に、ホテルや地場食材をつかったレストラン、地域の特産品が買えるマルシェをつくりたいと考えています。水耕栽培と魚の養殖をあわせたアクアポニックスなども展開予定。地域にどんどん仕事を作りたいので、一緒にやってくれる仲間を募集しています!」
熱中小学校をどんな場所にしていきたい?という質問に対して、亀井さんは次のように答えます。
「熱中小学校を、地域の人からみて村がよくなった、活気がでてきたね、と思ってくれるところまで持っていきたい。今は村以外からの人が多く参加していますが、レストランやマルシェをつくることで村の人にとっても親しみが持てる場にしていきたいです」
熱中小学校が地域の中のひとと外のひとをつなぐような場に育ってくれたら…亀井さんはそんな願いを話してくれました。
「私はよそ者だけれど、100人のうち1人でも「亀井がきてくれてよかった」と言ってくれる人がいたら嬉しいですね!」
市でも町でもなく、憧れの「村」に移住をして、起業をした亀井さん。ベンチャー起業でゼロからイチを創る道のりは決して容易いものではありません。しかし、その道が困難であるほど、そこには大きなやりがいや成長の機会が待っている、ローカルにもそんな面白いフィールドがあることを亀井さんは教えてくれました。
今度はどんな驚きをくれるのでしょう?これからの熱中小学校の挑戦、亀井さんの挑戦が楽しみです。
(2018年2月)

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